1年以上前から「スタグフレーション」の可能性を指摘していたが、ここに来て現実の可能性として議論する人がぼちぼち出てきた。
まだ、賛否両論だが、ようやく、スタグフレーションの危険性が認識されてきたようだ。「スタグフレーション」というのは前にも述べたが「不況なのに物価は上がる」という現象だ。
つまり、石油と食料の世界的な市況上昇で、物価が上昇しているように見えているが、企業や消費者の手元に残る「付加価値」は依然マイナスという状況を示している。
実需に基づかない石油市場、穀物市場などの高騰は、企業収益、個人消費を圧迫する。
少しでも舵取りを間違えるとスタグフレーションは現実のものとなる。
不況になったら石油市況はある程度下落するが、今の石油市場では進行市場の実需とサブプライムが破裂して行き場を失った投機資金の流入で昔のような50ドル割れは望めない。80ドル割れも難しくなった。
ことは石油だけではない。バイオ燃料需要から豊作でも需給が悪化して高騰したトウモロコシに始まり、そのあおりを受けて作付減少した大豆、世界的需要の盛り上がりと天候不順による小麦や米といった食料の高騰の背景に、ファンドの資金流入による投機的高騰があることは周知の事実。
投機資金は市場規模に対して大きすぎて流入額が巨額にのぼるため、暴騰するのは当たり前の話。
米商品先物取引委員会は穀物市場のこういう事態を防ぐために建玉に元々枠をはめていた。ところがヘッジ取引はこの規制外だったのが今の事態を招いたといえる。
商品でも金融でも「先物市場」は市場の価格安定化機能を担う目的で設立されているが、池の中に金融市場からあふれ出した巨額ファンドがクジラのように流入して水位があっという間に上がってしまったのだ。もはや本来の価格安定化機能が壊れてしまっているのだ。
米国は「建玉規制」の例外を外してヘッジファンドを規制しようという動きもあったが見送った。建玉を締めると、今度は暴落してしまうことが懸念されたからだという。
暴落しても泣くのはファンドに金を投機しているものだけだ。その中に米国年金資金もあるというが年金は庶民のため。その金が庶民を苦しめるという本末転倒。暴落しても、一過性で、その後はクジラが池の中で暴れ回れなくなれば長期的には良質な市場が形成される。
2008年2月15日の日経は「米サブプライム問題波及の仕組み」という解説図を米国の景気対策法の成立解説コラムに載せているが、「金融商品」の世界だけの問題のような図になっている。金融商品だけの問題なら投資家だけの損失であり、世界各国政府が取り組む必要はない。
問題は「米サブプライム問題」が、実体経済にどう波及するか、つまり世界不況の引き金になるかならないかという問題だという認識が欠けている。
これについては「金融不安の高まりが個人消費の悪化」としか記述されていないし、記事本文にも「将来に不安を抱えた消費者が貯蓄に励む可能性が高いためだ」などと脳天気なことを書いている。
貯蓄に励むどころではない。金融機関はこれまでの野放図な貸し出しを絞る、住宅担保の自動車購入など米国の消費のからくり自体が逆転してしまう瀬戸際にあること。
消費の縮小は様々な製品分野に広がり、好調とされている企業業績が急速に落ち込み、それが、設備投資分野にまで広がる。
ところが、先進国の製品市場は伸びない。景気が良いと言われる新興国も自国の需要だけではなく先進国の市場への輸出に大きく依存しているから、先進国がおかしくなれば、そのうち新興国の市場もおかしくなってくる。それも目の前だろう。
今好調な欧州経済も他人事ではいられなくなる。
庶民は生活必需品があがれば、それ以外への支出を絞ろうとするのは当たり前。製品価格は原材料費の高騰を全て製品に転嫁することはできない。そうなると、原油高に苦しんでいる企業のコスト改善は限界が出る。
消費者に近いところにいる企業は敏感だ。ウォールマートは商用車をハイブリッド化して燃費低減。米国の消費者は必需品を除き支出を絞る動きを顕在化しだした。
米国新車販売台数は5ヶ月連続減少と減りだした。トヨタも米国で6%販売減。世界連結で9年ぶりに減収減益の見通しを発表。設備投資まで5パーセント削るという。
もう、そろそろ、建前の資本主義ではなく、金にばかり目を向ける「米国型資本市場の誤謬」を正す時期に来ている。
それをやらなければ、世界不況もあり得ることを忘れてはならない。ただ、各国政府が、足並みをそろえて見直しをするのは非常に難しいだろう。 そうこうしているうちに、「石油経済の終焉」は間違いなくやってくる。
日本でも、影響は顕在化し始めている。
特に国内市況商品など価格転嫁力の弱い製品を持つ企業がそうだ。水産物は漁船の燃料費、遠洋漁業などは冷凍庫の発電も石油。コストがかさんでも魚価は市況次第。あがれば消費が減退して下落する。
農産物もハウス栽培など全く同じ構造だ。蒸気を使う企業も同じ。クリーニング業、製紙業、挙げれば多々ある。付加価値は抑えられる。
日銀は生鮮食料品を除いたコア消費者物価指数というのが前年比でプラスになっているからデフレ脱却は近いなどと言い続けているが、「食料とエネルギーを除いたコアコア消費者物価指数」はマイナス。
前に述べたかもしれないが、日本工作機械工業会が発表した2008年1月の受注総額確報値が前年同期横ばい、輸出は29ヶ月ぶりのマイナスになった。アジア向けも北米向けも二桁前後のマイナス。欧州向けのみが好調という状況だ。
つまり、設備投資も減速する兆候だ。
スタグフレーションの兆しは既に出ている。
金融不安が実態景気後退に移行しようとしているのに長期金利が反転してきている。銀行は長期プライムを.3パーセント上げると発表 5/83月の低下の修正だと言うが。
2007年10-12月期国内総生産(GDP)速報のGDPデフレーターは前年同期比1.3%のマイナスで、これは前期よりマイナス幅が0.7%拡大している。
原油高による輸入物価上昇を国内物価に十分に転嫁できない、つまり企業の採算悪化を示していると見られる。単位労働コストも前年同期比1.8%のマイナス。
マンション契約を見ても不動産経済研究所発表の2008年1月マンション市場動向で首都圏の契約率が52.7%、近畿圏が57.6%とひどい様になっている。これはバブル崩壊後の1991年8月以来の低水準という。
これまで、マンション販売は「改正建築基準法」の影響で発売戸数が減ったのが問題だなどと言われてきたが販売戸数が減っているにもかかわらず契約率が強烈に落ち込んでいるというのはとうとうこれまでの住宅ミニバブルが日本でもはじけたことを示している。
にもかかわらず政府も、日銀も動きは鈍い。
個人減税廃止にもかかわらず、金利上昇を狙っていたような日銀は、新総裁になっても物価重視の今のスタンスを継続するように見える。
政府も、減税廃止だけでなく、社会保障費抑制で雇用保険の国庫負担を廃止しようとしている。
民主党もおかしい。道路特定財源でもめているが、道路特定財源は石油消費を押さえるためにも、環境問題のためにも税率は欧米並みの高率もおかしいとはいえない。
問題は使い道だ。今更、道路に金を注ぎ込んでも経済効果はない。環境、生活不安を押さえるための福祉、脱石油技術の開発を促進する原資、長期金利が上がるのを押さえるための国債の減額。使い道は色々あって足りないくらいだ。
脱石油経済、脱金融資本主義、脱土木国家といったビジョンを明確にして取り組まないとならないと思うが如何だろう。
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